第39回少年の主張 福島県大会 優秀賞
「震災から生まれた絆」
須賀川市立長沼中学校 3年 廣田 綺里
「同じ苦しみを知っている者として、何かできることはないか。」熊本地震から1ヶ月ほど経ったある日、私たち生徒会役員は真剣に話し合っていた。
2016年4月14日、熊本県で最大震度7を記録する大地震が起きた。私は翌朝のニュースでそのことを知った。中継される現地の様子を今でも鮮明に覚えている。地震に耐えきれずに崩れた民家、瓦や石垣が崩壊した熊本城。テレビの画面で見るその光景は、地震の脅威を伝えると同時に、6年前の私の記憶をよみがえらせた。
6年前の東日本大震災、福島県は地震、津波、原発事故の大きな被害を受けた。ライフラインが止まり、避難所や仮設住宅での生活を余儀なくされる人も少なくなかった。私の住む長沼も大きな被害に遭った。農業用水ダムとして土地を潤してきた藤沼湖が決壊したのだ。大量の水が流れ出し、近くの家々を飲み込んだ。しかし、その2年後、水のない藤沼湖の底から、あじさいの株が見つかった。湖の底だった場所で生きる不思議なあじさいは、地元の人々に勇気を与え、『奇跡のあじさい』と呼ばれた。
東日本大震災の後、熊本県からは、福島、岩手、宮城の3県に合計1600万円の義援金が届いたそうだ。「今度は私たちが恩返ししよう。」先生方と生徒会役員で一生懸命議論した。いろいろな意見が出たが、「お金や物資ではなく、同じ体験をした中学生だからこそできる『心の支え』となるものを送りたい。」という思いは全員が一緒だった。
数日後、「藤沼湖の湖底で見つかったあじさいの花と、心の支えとなるメッセージを送ろう。」と決まった。『奇跡のあじさいプロジェクト』と名付けたこの活動は、全校生徒と先生方の協力が必要だった。一人一枚、熊本で被災した中学生へのメッセージを書き、それを模造紙に貼り付けた。およそ180名のメッセージには、あの日の自分たちと重ね合わせ、「復興に向かって頑張っていこう。」という強いメッセージが込められていた。こうして私たちは、熊本県宇土市立住吉中学校へ、あじさいの苗とともに、長沼中学校からのメッセージを送った。1000年に1度の震災をくぐり抜けた、私たちの思いが伝わることを信じて。
数週間が経ち、『奇跡のあじさいプロジェクト』が思い出になりかけていたころ、私たちのもとに、住吉中学校から返事が届いた。全校生徒からのお礼の言葉が書かれた冊子だった。「熊本県も頑張るけん。福島県も頑張ってください。」最も印象に残った言葉だった。私は、届いた冊子を読んで、「熊本県の中学生に私たちの思いが伝わった。」と確信した。冊子には、熊本の土に根付こうとするあじさいの写真も添えられていた。福島県と熊本県、東北と九州で遠く離れた場所だが、「同じ震災を体験した者として、被災地の人を励ましたい。」という思いから絆が生まれた。
私たちのこの活動は、福島県にも認められた。県の支援を受け、私たち長沼中学校新旧生徒会役員は、この夏休みに、熊本県を訪問した。住吉中学校の生徒にも会えた。距離を超えて絆が生まれた仲間と実際に話し、私は多くのことを学んだ。熊本地震のこと、復興の現状、そこに生きる人々の思いを体で感じることができた。この経験を福島、長沼のさらなる復興へとつなげたい。